こんにちは。storyIの猪俣恭子です。

「同じことを何回も繰り返し教えているのに、どうもあの人はのみ込みが悪い。
わからないのか、わかろうとしないのか? 私の教え方が悪いのかな」

仕事をしていて、そう思うことはありませんか?

職場で、部下や後輩や新しく入ってきた人に「教える」場面は多くあります。

これからお願いしたい仕事の内容や手順の説明もあれば、職場の規則やルール、指示や連絡など、教える場面は頻繁にあります。
私たちは、どのように伝えれば部下が間違いなく理解してもらえるだろうかと、幾度となく考えます。

それでも思い違いがあり、望ましい結果が得られないことも多々あるわけで、そうすると私たちはさらに自分の伝え方についてあれこれ悩みます。

どのように伝えたら、こんなことにならないのだろうかと。

同じ状況が続くにつれ、私たちは少しずつ自分のほうが話している時間が長くなります。

場合によってはくどくなったり、口調もきつくなることもあります。
ひと通り話したあと「わかった?」と確認し、部下は「わかりました」と答えます。

それを聞いて、私たちは安心します。

しかし、蓋を開けてみると、こちらが思っているように相手は理解していなかったり、前回と同じような確認をしてきたりと、結局は繰り返して説明しないと仕事がスムーズに進まない…と頭を抱えることがあります。

一方、教えるのが上手な人がいます。

製造会社で営業課長をしている友人のFさんはその一人です。

彼は社内で「若手を一人前の営業担当者にしたかったら、彼に任せよう」と言われているほどで、実際に彼が指導する部下は実績が出るようになり、たとえ他部署でなかなか芽がでなかった部下でも、彼のもとだと数字を出せるようになるそうです。

一体どうやっているのか、彼に聞いたことがありました。

「最初のうちは、営業の時に必ず部下を連れていきます。

そして、その日のうちに必ず、一緒に振り返りをしているんです。
会社に戻ってきてからの時もあれば、喫茶店ですることもあります。

ここが重要で、振り返りの時に僕が一方的にレクチャーしたら、だめなんです。
逆に部下に話してもらうようにしています。

商談が始まってから終わるまで、お客さまと僕の間でどのような会話のやりとりがあったか。
僕がお客さまにこんな質問をしたのは、いったいどのような意図があってのことか。
お客さまのニーズがキャッチできたのは、お客さまの何を観察し、何を聞いていたからか。
どんなタイミングで資料を提示したか、商品の説明はどのように話していたか。
クロージングの言葉はなんだったか。

もちろん、参考になったところや質問、確認したいところも話してもらいます。

そうやって部下は思い出しながら話していくうちに、状況が明確になっていくわけです。
わかっているところと、わかったつもりになっていたけれども実はあやふやだった、というところも明らかになります。

一方的に聞いているだけでは、人は覚えられません。

話すことで、さらに記憶が残ります。
必ず振り返りをすることは部下もわかっていますから、一緒に訪問している時の真剣度が違いますよ。

聞きもらさないように、僕とお客さまをしっかり観察しています。

大切なことは、振り返りの時間は部下が評価されている時間じゃない、ってわかってもらうこと。

安心して話してもらわないと、学習にならないですから。

確かにアウトプットすることで、インプットしたものは鮮明に記憶に残ります。

例えば、英語を学習するとき、英単語は単独で機械的に暗記するだけではなく、作文や会話の中で実際に使うことで徐々に身につきます。

何かを習得するときには、アウトプットにもインプットと同じくらいの時間を使ったほうが記憶に残るし、理解も深くなります。

ドイツの心理学者エビングハウスの「忘却曲線」では、人は学習後30分もすると覚えたことの半分以上を忘れるということがわかっています。
ということは、部下が上司から聞いた情報は、時間の経過とともに忘れられているのです。

しかし、「話す」こと自体がそもそも思い出すことなのですから、話せば話すほど記憶は定着します。

ですから部下にも、話してもらう時間をつくりましょう。

職場のルールやお願いしたい仕事の内容や手順など、それらを説明したあとに。

ただし、なぜそうしてもらうのか、その理由も部下に伝えることがとても大切です。

でないと、「話させられている」と誤解を感じてしまいますから。

「話すことで理解が深くなり、整理もできるし、知識が自分のものになる。
それに、何があいまいになっているのかにも気づく。

だから、私の説明をひと通り聞いたら、今度は私に教えるように説明してくれる?」

理由がわかれば、部下は安心して話せます。

どうぞこのときも「聞き上手」になってください。

部下がきちんと理解して話せたところは承認し、あいまいだったところはもう一度教えればいいのです。

話すことで、人は二度、学びますから。