こんにちは。storyIの猪俣恭子です。

「ほんものの目標」と「見せかけの目標」の違いを、どのように観察してみてとればいいでしょうか。

コーチングをしていて、そのことを思い知らされたことがありました。

クライアントの方はKさんという30代半ばの方で、広告会社に勤めていて話し方もとてもはきはきとしていて快活な印象の方でした。

Kさんのコーチングのテーマは

「今の会社に勤めて10年。
自分の強みや自分らしさが、より発揮できるような会社に転職したい。」

というものでした。

そこで「ゴール」を「半年後に転職、年収は600万円」としました。

「目標」

一か月後には、Kさん自身の強みが整理されて、応募したい企業が見つかっていること。
二か月後には、経歴書を郵送して、書類選考をパスして面接を受ける企業が二社あること。
三か月後には、最終面接をクリアして、内定すること。

と設定しました。

ここまで明確であれば、このコーチングはかなり順調に進むだろう…と思ったわけです。

しかし、一回目のセッションが終わっても、二回目のセッションが終わっても、二ヶ月目に入っても、Kさんはなんら行動しようとしません。

何が理由なのだろうと、何かコーチングの参考になるものはないかと、本をぱらぱらとめくっていた時、ある一文が目に飛び込んできました。

成功の秘訣は、目標が明確であることではなく、目標がほんものであることにある。

(「マイ・ゴール これだ! という目標を見つける本」ケン・リチャード・H・モリタ著/イーハトーブフロンティア)

ああ、これだと思いました。

目標設定の前に「なぜそれがしたいのか?(Why)」という動機や欲求、つまり目的がはっきりしていなければ、その「目標」がほんものなのかどうかはわかりません。

もし「目標」がほんものでなかったら、本人に行動が起きるわけなどないのです。

そこでKさんの「転職したいと思う動機」=「なぜ(Why)」の部分をじっくり聞いてみることにしたのです。

すると彼女の行動しない本当の理由が、少しずつ見えてきました。

「実は、上司にプライドを深く傷つけられて、とても悔しい思いをしました。
『自分だってこんなにできる』ことを上司に示して、見返してやりたい。
現在の条件よりもいいところに転職できる自分であることを、上司にわからせたかった。

けれども、本当は今の会社や周りの人たちは好きで、実は、転職なんかしたくない」

惨めな気持ち、悔しい気持ちを隠しながら、Kさんがコーチングを受けていたことを初めて知りました。

Kさんが本当に手に入れたいことは、

「上司から何を言われようと、自信をもって提案できるだけの知識やスキル」

であることに、私はようやく気付きました。

それからKさんと話し合いながら、コーチングのテーマを「上司とのコミュニケーション」に変えました。
その後のコーチングは順調に進み、Kさんは上司に対して上手に対応ができるようになりました。

Kさんは転職することなく、その会社で実績を積み、リーダーとして活躍できるようにもなったのです。

私たちがどのように関わったら、部下は自ら目標を達成したくなるでしょう。
それには、その目標が「部下にとって本当に達成したい目標なのかどうか」を一緒にみること、です。

具体的には「なぜそれがしたいのか(Why)」という「動機や欲求=目的」について部下が考え、語る時間をつくることです。

例えば次のような質問をして。

「どうして、それをやりたいの?」
「その目標は、あなたにとってどんな意味があるの?」
「その目標を達成したら、あなたにとってどんないいことがあるの?」

その問いに答えながら、部下は自分なりの目的やビジョンを少しずつはっきりさせていきます。

次第にその目標は、他人から与えられたものではなく、自分の内側から起きたものになっていきます。

そうなれば、あとはKさんのようになるでしょう。
自分なりに試行錯誤しながらアイディアをだし、やる気をもって目標に向けて行動し続けるようになるに、違いありません。