こんにちは。storyIの猪俣恭子です。

一緒に仕事をしていれば、相手の態度に「カチン」とくる瞬間があります。

理由はささいなことであっても、それをきっかけにお互いの距離が離れていくケースが多いように思います。

それゆえ「カチン」と感じたとしても、気にならない素振りをしてそのままにしてしまう人もあれば、相手がどんな態度をとろうが最初から気にしないと決めている人もいます。

しかし、いったん「カチン」と感じてしまったことは、消えることはありません。

そのうち、「わだかまり」となって、結局、お互いの距離は離れます。

一方でその瞬間をお互い、さらにわかりあえる絶好の機会にしてしまうこともできます。

新入社員を対象にコミュニケーション研修をしていた時のことです。
一人、気になる受講者がいました。

一言で言えば、態度が悪い。

椅子に浅めに腰掛け、背もたれに寄りかかり、足を組む。うつむき加減で、時おり顔を上げれば無表情。

彼が視界に入るたび、私は思考が止まり、口はなめらかでなくなり、同じことを二度三度と繰り返してしまい、居心地の悪さを感じていました。

全3日間の研修の2日目が終わった時に、考えました。

「このままでいいのだろうか。やり過ごすこともできる。
しかし、彼は職場でも同じ態度をとるだろう。
もしかしたら、研修がつまらなくてあのような態度をとっているとしたら?
しかし、研修受講も仕事と同じ。たとえつまらなくても、それなりの態度をとるのが社会人として大切」

思案した結果「どうして、そういう態度をとっているのか」を彼に直接、訊くことにしました。

翌日は研修最終日。休憩時間に彼に近づいて声をかけました。

「つまらなさそうに見えるけど、どうなの?」

彼の目が一瞬泳ぎました。

「いいえ、そんなことはありません」

「そうなの? 何か私にリクエストある?
研修もあと残りわずかだけど、直せるところがあれば直したい、と思って」

「いえ、それはないです。
オレ・・・、こういう態度をとっていますけれど、ちゃんと聞いています」

これでちゃんと聞いているのか・・・と拍子抜けしましたが、それ以上は訊ねるのをやめました。

驚いたことに、それから彼の行動が変わったのです。

それまでずっと、会場の後ろのほうに座っていましたが、初めて前のほうに移動してきました。
仏頂面は相変わらずでしたが、足組みをやめました。

何より、私のほうを見ながら話を聞くようになったのです。

研修終了後、「ありがとうございました」とわざわざ挨拶をしに来たことが意外で、今でも印象に残っています。

「研修」という場は、さながら職場の縮図です。

講師をしていると、上司やリーダーの気持ちがよくわかります。
部下の態度に「カチン」とくる瞬間は多くあるでしょうが、過敏に反応しないことが大切です。
それよりもむしろ、こちらから部下の懐に飛び込んでしまったほうがよいです。

そして、訊ねてください。

「どうしてそういう態度をとっているの?
私に何かリクエストはある?」

と。

といっても、あの新入社員のように明確な答えは返ってこないかもしれません。

しかし、あなたがそうして訊ねることに大きな意味があるのです。

「その態度を改めなさい」と一方的ではなく、「この人は自分の言い分を聞こうとしている。他の人と違う」と部下は思うでしょう。
また、自分の懐に飛び込んできたあなたを見て、あなたを勇気ある人と感じます。

あなたのそのチャレンジを目の当たりにして「自分も自分の何かを変えて返してみようか」、そう思うようになります。

部下の態度に「カチン」ときたときほど、遠くから部下を眺めない。
それよりも、こちらから思い切って部下の懐に飛び込む。

お互い、さらに分かり合える絶好の機会は、そうしてつくられるのです。