こんにちは。storyIの猪俣恭子です。

数年前、仕事で伺った研修会場のロビーに、思いがけない作品がありました。
いや、出会ったという感覚に近いです。

それは、左官技能士の挾土秀平(はさど しゅうへい)さんの作品。

挾土さん?
馴染みがあるところでは、「NHK大河ドラマ『真田丸』の題字の作者」といえば、つながるでしょうか?

作品に添えられている案内板には、次のようにありました。

普段は、建造物や個人住宅の壁塗りを行う傍ら、日本の伝統的な土蔵から茶室等を行う。
東京の一流ホテルのエントランスロビーまで、天然の土と素材を使った独自の世界の塗り壁づくりは、モダンかつ斬新。
他に類がなく、日本全国に活躍の場を広げている。

作品の前に立ってみました。

今、私がこうして立っている位置に、挾土さんも同じように立っていたはず。
何を思い、何を感じていたのでしょう?

はて、触っていいものかと迷いましたが、“触らないでください”の掲示は見当たりません。

そっと触れてみました。
案外と固く、重厚感を感じます。

以前、挾土さんとダンサー・舞踊家の田中民さんとの対談をテレビで見たことがあます。
そこでの挾土さんの言葉がとても印象的でした。

いくつもの工程を経て、最後の仕上げをする時、自分が失敗したら、全部がだめになる。
壁に向かう度、気持ち悪くなって一度手を止めて、チョコレートを食べる。
そしてまた壁に向かうけれど、また気持ち悪くなる。
そんな事を3回位繰り返して、やっと壁と向き合える。

これほどまでの人が・・・!

自信にあふれ、確信に満ちた人に思いきや、違っていたことに驚きました。

そう知ったときに、何故かほっとしたのも事実です。
挾土さんに親しみを感じました。

それからファンになったのです。

かつて、『プロフェッショナル仕事の流儀』に挾土さんが出られた時には、こんなことを話していましたっけ。

焦って仕事をすれば、必ず失敗する。
どんなに追い込まれても、間をとり、冷静さを失わない。

日没が近づき一刻も早く仕上げたいと焦る職人たちを尻目に、挾土さんは現場を離れ、一服して気持ちを落ち着かせます。

そんな映像を思い出しました。

そこまでして妥協せずに取り組む挾土さんの作品だからこそ、実物を一度は見てみたかったのです。

もしもまた観られる機会があれば、その時には、もっと時間をかけてみたいです。
自然の光で移り変わるだろう壁の表情をゆっくり楽しみたい。

「ほんもの」と、ただ一緒にいることを味わう。
それだけで、十分です。