先日、担当した新入社員対象研修でのこと。
指導育成する意味で、非常に学んだことがあった。

新入社員研修の目的は、
新人が職場配属後にソフトランディングできるようになることだ。
上司や先輩との人間関係がよくなるように、
働く意識や職場のルール、マナーを徹底的に指導する。
そういう時の研修講師の役割は、
人事担当者や上司が本当にわかってほしいことを
はっきり明確に伝え、
こちらの指示どおりに行動できるよう指導することである。
だから、ちょっとした「憎まれ役」だ。

研修受講中のルールのひとつに「5分前行動」がある。
休憩時間が終わって研修に臨む時は、
ぎりぎりに研修室に飛び込むのではなく、
開始前には自分の席に既に座り、
研修受講の準備をしつつのぞみなさい、というもの。

「ここで休憩に入ります。
 15時20分まで休憩時間です」
そう伝え、休憩時間に入った。
しかし、約束時間の15時20分になっても、
5名の新人がまだ戻ってこない。
二週間続く研修の初日だ。
もうだらけてしまったのか。
心がざわざわしてきた。

それから1,2分して、
研修室の後方からその5名がわらわらと入ってきた。
不思議そうな表情をしている。
足早に入ってくればいいものの、
そろそろと入ってくる。
その態度を見るにつけ、がっかりしてしまった。
こういう時は、「申し訳ありません!」と謝りながら、
小走りに戻ってくるものだ。
これを職場でやられては、指導係や上司は頭を抱えてしまう。
しっかり注意するタイミングだ。
私は、早速指導モードに入った。

こわごわした表情をしている5人を見据えて伝えた。
「いいですか。遅れた時は、
 まず、申し訳なさそうな表情と態度を見せてください。
 もう研修は始まっていたのだから、走って戻ること。
 ちゃんと講師と他の人たちに『遅れて申し訳ありませんでした』と
 ひと声をかけてから着席してください」
5人は神妙そうな面持ちで、「申し訳ありませんでした」と言う。
その声はか細かったが、
私が伝えたいことをちゃんと理解してくれている様子が感じられた。

ちらっと次の考えがよぎった。
なぜ、遅れたのだろう?

「で、どうして遅れたの?」
聞く順番が逆だわ、と自分につっこみを入れる。
すると、こう言うではないか。
「25分開始と間違えました」
え?! 25分開始?!
なぜ、そんな間違えが起きるのか?
「あれ? 私、25分まで休憩って言いながら、
 ホワイトボードに20分って書きました?」
もしかしたら私が言い間違えたのか?
「いえ、ちゃんと確認しなかった自分たちのせいです」
と新人は言うものの、解せない。
ホワイトボードの右下隅に目がいった。
そこには、
 14時25分~15時15分
 15時25分~17時
と走り書きの私の字がある。
タイムスケジュールをいつでも確認できるように、
そんなところに走り書きしたんだっけ。

「もしかして、これを見て、次の時間は15時25分だと思ったの?」
「うんうん」と新人5名の頷きは、やたらと力強い。
「なるほど。そういう意味ではちゃんと5分前行動していたんだね」
いえいえ、と殊勝に首を横に振る5名の新人。

素直に謝った。
ホワイトボードをメモがわりに使った私にも責任がある。

この体験から大切なことを学んだ。
何か相手がしでかした時は、
その行動をとった理由が必ずある。
叱ったり注意したり、物申す前に、
どうしてその行動をとったのか、
まずは理由を聞いたほうがいい。
なんていうのは、当然のことだが・・・。
当然のことなのに、
「まったく、もう・・・!」と頭がいっぱいになってしまうと、
何をどう指摘するか、自分のことしか考えなくなってしまう。

「どうして遅れたの? 理由を聞かせてくれる?」
あなたのことを理解したいという気持ちをもって、
問いかけ、事情を話してもらう。
そのことをお互いに共有したうえで、
こういう場合にとってほしい行動について指導し、
リクエストする。
そもそも、こちらの指示があいまいだったから、
指示の内容そのものが間違っていたから、など
私に「非」があれば、素直に頭を下げて謝る。

まず理由を聞くことだな。

そんな、当たり前のことをひしひしと感じ入った体験。
指導するというのは、
自分という人を知ること。
人を指導しながら、
相手から大いに学び、成長させてもらっているのだ。

「しまった、まずい・・」という体験は、
人と接するうえでの大切なことを、
いつもあたたく思い出させてくれる。

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