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【エピソード1】銀行員 本店営業部時代(前編)

~企業は自分を磨く場~

入行して数日後に行われた新入行員導入研修は相当インパクトがありました。
大げさかもしれませんが、あの研修があったからこそ、現場でどんなに辛いことがあってももう少しがんばろう、どうしても耐えられなくなったら研修センターのスタッフに相談しよう、そう思えるほどのものでした。

同期同士、おちゃらけたり、真面目にディスカッションしたり、夢を語り合ったりしあった三日間。
これから自分たちがこの銀行をもっとよくしていくんだという誇りと希望、そして現場でやっていくぞというモチベーションがあがり、私にとって本当にかけがえのない研修期間でした。

昭和63年度入行の新入行員全員が紹介された冊子より

本店営業部では融資課第三係に配属となり、そこでの主な業務は住宅ローン、カードローン、マイカーローン、住宅金融公庫でした。

営業部配属の新人は13人。この同期メンバーは先輩たちがうらやむほどの仲の良さ。
ミスをして先輩に怒られてくじけたときなど、自然に集まっては「なに、くそ! いつか見返そう!」と励ましあっていたものでした。

とはいえ、新入行員のときはやはり精神的にかなりきつかったですね。
職場でトラブルがあれば最初に疑われるのは新人。

電話でお客様の社名を聞き間違って、そのお客様と連絡がとれず、大事な決済が絡む話なだけに上司からすごい剣幕で怒られたこともありました。
神業のような先輩たちの事務処理のスピードについていけず「遅い!」といらいら声がとんでくるのは日常茶飯事。
お客様にどうしても伝えたいことがあって勤務先に電話をしたら「会社に電話してくるな!」とクレームに発展。
私の電話応対に不満を感じたお客様が「預金を郵便局に変えるからいいわよ!」と気分を害し、得意先係が菓子折りをもってすぐさま謝りにとんでいく。
書類作成の不備がもとで期日に融資ができなくなり、これまた上司が住宅会社とお客様に平身低頭謝りに行く・・・などなど。

大学4年生の我が世の春のように仕切っていた頃とはうってかわって、口癖は「すいません、すいません。」そればかり。
どんどん自分が小さくなっていく感じがしました。

一方で、こんなことも考えていました。

預金係はほとんど定時であがれるのに融資は毎日こんなに遅くまで残業続きだ、それってどうなんだろう、ミスや欠点を指摘しあうこの雰囲気ってよくないんじゃないか、人を委縮させる一方だよ、仕事を教えるにもひとつひとつの作業の意味や書類の役割など背景的なものを伝えながらの指導のほうが、結果として早く仕事ができるようになっていくんじゃないか、と。

そこで、決意したんです。「私がこの職場を変えよう。」と。

融資係も定時にあがれるようにしよう、そしたら融資業務を担当したい人も増えるだろう、人のいいところやできているところを認めあう職場にしよう、自分が先輩になったら作業の背景的なところも新人に伝えていこう、と。

そのために必要なことは何だろう。考えました。

いずれにしても、私が「仕事ができる人だ」と周囲から一目おかれる存在にならなければ提案や意見を聞いてもらえないだろう。
そう思うと行動はいたってシンプルになります。
仕事のスピードアップのために取り扱い商品や業務知識は必要不可欠。
また「福田さんの仕事は間違いない、確実だ。」と上司、先輩、お客様から信頼されることも大切。

そこで休日にはオリジナルに作成したマニュアルや商品カタログを何回も読み直しました。
さらに、様々な検定試験にもチャレンジしました。

というのは、検定試験合格者は銀行内で発表になり、ある意味存在のアピールにもなるからです。
もちろん勉強をすることで知識も深まりますから、事務作業ひとつひとつの決断も早くなりましたし、何よりも自信をもってきめ細かくお客様に商品の案内ができるようにもなりました。

ここまで書くと一人でがんばってきたようですが、もちろんそんなことはありません。
本店営業部で仕事をしたのはたったの2年間でしたが、上司や先輩、同期には本当に恵まれました。
周囲の応援があったからこそ今の私がある、しみじみそう思います。

入行してから3か月間の成長の足跡が綴られる「勤務ノート」

たとえば、パーソナルコーチのMさん。

Mさんは、冷静沈着、書類の仕上げはパーフェクト、難しい案件になると必ず声がかかるほどで、上司からもお客様からも絶大に信頼されていました。
それはそれでかっこいいし、頼りがいもありましたが、反面ちょっと近寄りがたい感じもして、それなりに気を使っていました。

ある朝のことです。
「おはようございます」と挨拶をしながら出勤されるMさんは、いつもと違ってそわそわしているように見えました。
席に座るなり、左隣の私のほうにくるりと身体を向けると、こう言います。
「ねえ、福田さん、辞めるなんて思ってないわよね?」あまりにも突然なことに、私は「えっ」ととまどうばかり。
「福田さんが『辞めたいんです。』って言っている夢を見たの。ああ、私がきつかったからかなあと思って。辛いことや悩んでいることがあったら、ためないで相談してきてね。」と。

私のことを気にかけてくれる思いがまっすぐに届いてきて、とても嬉しかったですね。
職場に自分の居場所ができたような、そんな安心感も生まれて「よーし、がんばるぞ。」とやる気がふつふつとわいてきた感覚を今でも覚えています。

また、直属の上司のSさんにも本当にお世話になりました。
Sさんは物静かにたんたんと仕事をされるタイプで、上司からの指示も、お客様からの苦情も依頼も、とにかく無理難題すべてひっくるめてスポンジのように吸収する人でした。

Sさんのすごいところは、部下のミスや失敗に対して「なんでこうなった!」と感情的になったり、問い詰めることが全くなかったことです。(少なくとも私の前では)
何かトラブルがおこると、「はい、私の出番です。お客様のところに行ってきましょう。」と薄い黒かばんをもって、いそいそとお客様のところに行かれる様子は、楽しそうにも見えました。

とはいえ、きっと難しい案件も抱えて苦労もあったことと思います。
けれども愚痴を言っている姿は見たことがありませんでした。

その静かな姿からは「私の役割は部下を守ること」という決めも伝わってきて、だからこそ私たちも安心して大船にのった気持ちで仕事ができました。
ちょっとでも困ったことがあればどんなことでもすぐ相談をしましたし、何よりもSさんのために・・・という気持ちが課のメンバー5人にあったように思います。
かっこいいことを言うと、この課で実績をつくって、Sさんを昇進させよう、のような。

いまだに忘れられない思い出は、書類の不備で大失態をやらかして、ただただ謝るだけの私に「このお返しは福田さんの出世払いでいいですよ。」と穏やかに笑いながら言葉をかけてくれたあの場面。
今でも思い出すたびに胸があつくなります。

私が目指したい上司像や先輩像の原点は、この本店営業部融資課第三係にあるといっても過言ではありません。
人の感情、喜怒哀楽全部ひっくるめて、まさに「企業は自分を磨く場」。
企業で働くことのダイナミズムを少しずつ少しずつ感じはじめた新入行員時代でした。

2020-04-15T09:36:23+09:00
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