「Iさんは、五年後にはどうなっていたいの?」
「ビッグになっていたいです。あっ、言っちゃった!」
「はあ、ビッグ! いいねぇ。どんな仕事をしたいの?」
「映像作品をつくってみたいんです。みんなが“あっ”と驚くような」

印刷会社で働いていた頃の新入社員との会話だ。
彼、彼女が将来どんなふうになりたいのか、
何ができるようになりたいのか、
自分自身の明るい未来がイメージできるようになればいい、
そう思って、よく問いかけていた。

ある若手は「土いじりが好き。家庭菜園を持ちたい」といい、
ある若手は「せめて車が一台は欲しい」といいい、
またある若手は「この県の印刷会社だったら、うちの会社と言われるようになりたい」と、
それこそ好きなように自由に語ってもらっていた。

それはしていたのは、信じていた思いがあったからだ。
ビジョンという存在は、
それを語るたびに「自分はどういう人なのか、何がしたいのか」、
大切な動機を思い出せるもの。
将来はこうなりたいというビジョンがはっきりしていれば、
今していることは、そのビジョンにつながっていると、
自分なりに捉えることができ、充実感や満足感にもなっていく、と。
毎日ほぼ同じ業務の繰り返しだったからこそ、
特に若手社員には「刺激」を感じてほしかったのだ。

さて、このビジョン。
実現したいことが実現したときのイメージ、や、
一枚の絵、という意味がある。
「絵」なのだから、ビジョンを「書く」とは言わない。
ビジョンは「描く」なのだ。

かくいう私は、実はビジョンを描くことは苦手だった。
「ビジョンを描く」とは、どういうことなのかもわかっていなかった。
事実、コーチとのコーチングセッションも次のようなやりとりだった。

「今日は、リーダーとしてのビジョンを描く時間にしたいです」
「そう。猪俣さんは、どんなリーダーを目指すの?」
「はい、社員から信頼されるリーダーになりたいです。
 そのためには、とにかく社員のは話をしっかり聞くようにしたいです。
 また、会社がどういう方向を目指すのかも、社員に伝えることも大切です。
 あとは・・・」
「ちょっと待って!」
コーチが突然中断する。
「ビジョンを描きたいんでしょう?」
「はい、そうです」
「猪俣さんが話しているのは、ビジョンじゃなくて、
 『これから何をすべきか』というアクションプランになっているよ」
「・・・・・・」

全く気づいていなかった。
私は「これから何をする」をすぐに考える癖があることを
コーチからのフィードバックで気づいた。
ということはだ。
日頃の社員との会話でも、
「次に何をする」という指示事項が多いということだ。
いや、そればかりだったろう。
私からいつもいつも指示ばかり聞かされる社員は、
どうなっていくのだろう?
言われちゃ、動き、
また言われちゃ、動く。
言われるがままの受け身の人でしかなくなっていく。
そんな職場で働いていて、果たしてどれくらい面白いだろうか?
面白いわけがない。

それからだ。
自分が「何について」話しているについて、
かなり意識するようになったのは。
今、自分が相手に話しているのは、
ビジョン? 目標? それともアクションプラン? なの? と。

社員一人ひとりにも意志がある。
それを「引き出して」というよりは、
相手自ら「語りたくなるよう」な関係になっていけば、
職場は明るい未来に向けて動くエネルギーで包まれるはず。

今日でも、一週間後でも、一カ月後でも、
半年後でも、一年後、三年後、五年後でも・・・。
あなたは、その時に何をしている?
誰と一緒にいる?
どんな表情で何を話している?
どんなことができるようになっている?
会社ではどんなポジションになっている?
そして、その時は次に何を目指している?

今は未来の過去。
未来は必ず誰にでも、平等に均等にやってくる。
その未来に、自分が物語の主人公として、
大手を振って生き生きと歩いているビジョンを描くサポートをする。

そういうサポートも、
ささいなことのようで、でも大きな意味があることだ。

  今度は会議にタイマーをセットして、
  予定どおりに進行できるようにしよう。
これは「すること」。
  今度は会議にタイマーをセットして、
  予定どおりに進行できるようにしよう。
  そしたら、終了時間内に終われると思うんだ。
  そうなったら、この会議に参加してよかったって達成感を味わえない?
  それに、残業時間も減らせると思う。
  早く帰れるようになるよ。家に帰って、あのドラマが見られる!」
これは「ビジョン」。

指示命令もきちんとする。
そして、時折、相手の心のうちに秘めるビジョンを語ってもらう。

そして・・・。
もちろん、あなたもビジョンを語る。
部下、メンバー、若手たちは、
上司やリーダーであるあなたのビジョンを知りたがっているから。
あなたのビジョンを一緒に叶えたいとも思っているから。

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