職場で部下に意見を訊ねると、
すぐに「わかりません」と返ってくる場面はないだろうか。
「わかりません」と言われても・・・。
もう少し考えてほしいんだけどなあ。
と、ため息をついたり。
しかし、そういう場面も部下を育てるチャンスだ。
そう思った経験を今日は書いてみたい。

ある研修でのこと。
大詰めを迎える最後の一時間30分は、
三人一組でエクササイズを実施する。
その時のお題は「自分はどんなリーダーになるのか」で、
コーチングフローを活用しながら、
ビジョンを明確にする会話のプロセスを練習するというもの。

それぞれの組の話し手役の方は、
まるで堰を切ったかのように、
顔を赤らめながら、のびのびと話している。
会場には笑い声さえ飛び交う。
しかし、ひとつの組だけ様子が違った。
三人とも俯き加減。
決まり悪そうにしている。

「どうしたんですか?」
声をかけると、
いや、その、あの・・・、と歯切れが悪い。
「わからないんで」
ぽつりと言ったのは、話し手役のAさん。
そんなAさんは几帳面で真面目そうな感じ。
考えることも話すことも大方自分の考えがまとまってから、
ようやく言葉にして話したい、というタイプの人のよう。

「わからない?」
「リーダーになったばかりで、とまどっているんです。
 ですから、どんなリーダーになりたいか、わかりません」
なるほど。
それで、聞き手役のBさんが困っていたのだ。
それはそうだ。
「相手の目標達成をサポートする会話の流れを練習しましょうね」と
講師から言われて始めたのに、
開口一番、相手から「わかりません」と返ってくれば、
このあとどうやって会話を続ければいいのか、
途方にくれるだろう。

しかし、ここはとってもいい場面だ。
職場でだって、部下に意見を聞こうとして、
即座に「わかりません」と返ってくるケースは多々ある。
さて、この場面をどう活用しようか。

「Aさん」
「はい?」
「Aさんは、正直な人だと思う。
 純粋に“わからない”から“わからない”と答えたんだよね」
「はい」
わかってくれてよかったというように、
少しはにかみながら、Aさんは答えた。
「それでね、Aさんが“わかりません”と言って、
 Bさんはどんな気持ちになっているだろう?」
はじめて、“はっ”と顔が上がるAさん。
Bさんに訊ねた。
「Bさん、どんな気持ちになったのかな?」
「ええ・・・。困りました」
「そう、困っているよね」

ここで、会話を再びAさんに戻す。
「Aさんは、Bさんを困らせたくて“わかりません”って
 言ったのかな?」
「いえ、そんなことはありません」
「そうだよね。だけど、実際に起きているのは、
 Bさんが困ってしまっているということ。
 だって、そのまま会話が続かなくなっちゃったものね」
「はい・・・」
「もしかして、Aさんは、“わかりません”て言うのが、
 癖になっていない?」
「あっ、そうかもしれません」
「だとしたら、自分が相手にどんな影響を与えてしまっているのか、
 ここでわかってよかったんじゃない?」
「はい」
「じゃあね、Aさん。“わかりません”って言ったあとに、
 どんな言葉を続ければいい?」
「?」
「わからなくて、で、この二人の会話をどうしたいのかな?」
「・・・・」
「それが相手にリクエストするということだよ」
「・・・・」
しばらく沈黙が続いた。
時間にして30秒くらいだろうか。
Aさんの口元が少し動く。
「わからないので・・・、一緒に考えてほしい」
「そうなんだ。一緒に考えてほしいんだね」
「はい」
「いいね。職場に戻ってからも、“わかりません”だけで
 終わるんじゃなくて、今みたいに、だからどうしたいのかを
 ちゃんと話してね」

このやりとりを聞いて、
Bさんもぱっと顔が明るくなった。
ただ単に「考えてほしい」ではなく、
「一緒に、考えてほしい」というのがいいじゃないか。

さて、話しはここで終わりではない。
「わかりません」と言われた側のBさんは、
この場合、どのように対応するとよいだろうか?
もちろん、さきほどの私のように、
「わからなくて、で、どうしたいの?」
と訊ねるのもひとつ。
その他には?
対応はひとつだけでなく、
いくつかレパートリーがあったほうがよい。
続きはまた次回に。

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