「どうしたら、リーダーとメンバーの関係がもっと良くなるでしょうか」
相談されたので、次のようにアドバイスした。

「メンバーがリーダーの名前を呼ぶように言ってみたら?」

もっと高尚なアドバイスを期待していたのだろう。
相手の方は、一瞬絶句。
そんなこと・・・と拍子抜けされた面持ちだった。

しかし、侮るなかれ。
お互いの会話に相手の「名前」を入れるのは、
思っている以上に相当な深い効果がある。

この世の中で一番聞き心地がよいフレーズは、
自分の「名前」だとも、どこかの本で聞きかじった。
心理的にも、自分の名前を頻繁に呼ぶ人に、
人は好感を持つようになる、とも言われている。

さて、自分のことを振り返った。
仕事仲間の後輩のYさんを思い出す。
「猪俣さん、猪俣さん! これ見てください」
「猪俣さんはどうやっていますか?」
「猪俣さん、もっとはっきり言って大丈夫ですよ」
Yさんは、会えばそんな感じだった。
自分の名前の響きが、風鈴の音のように優しく心に響き、
Yさんと話していると、これで大丈夫と自信が湧いた。
彼女と一緒に仕事をしたのは、
数ヵ月の短い期間ながら、
メンバーの中で一番印象に残っている。
それも親しみと温かさにあふれる印象で。

さて、もう一人。
かれこれ20年近くも通っている美容院で働くAさん。
彼女はスタイリストさんについているアシスタントだ。
Aさんは、とても可愛らしい。
思えばAさんも私の名前をよく呼ぶ。
「猪俣さん、お茶を持ってきましょうか」
「猪俣さん、ひざ掛けを用意しましょうか」
「猪俣さん、こちらへどうぞ」
将来自分の店を持ちたいと語るだけに、
とても仕事熱心だ。
彼女との会話は笑いで包まれる。
彼女が少し席を離れた時、スタイリストさんが言った。
「実は、Aはお客様からの指名が一番多いんですよ」
うーん、さもありなん。

自分の「名前」を頻繁に呼ばれれば、
こちらだって、その人の顔を見るようになる。
その人の存在そのものだって、
ぐっと身近に迫ってこよう。
自分の「名前」を頻繁に呼ばれれば、
自分もその人の「名前」を知ろう、
覚えようという意識が芽生えてくる。
結果、お互いの関係はより親しみ深いものになっていく。

相手の「名前」を呼ぶ立場から見てみよう。
「名前」を呼ぶ、というのは、
「この人の名前は?」と関心を寄せるところから始まる。
それは、自分から相手に近づくということ。
「名前」を知ったところで、選択肢は分かれるわけで、
相手の「名前」を呼ぼうが呼ばわなかろうが、
どっちだって自由だ。
その時、相手にネガティブな印象を持っていたらどうだろう?
相手の「名前」を呼ぶだろうか?
「すみません」
「少し、いいですか?」
「あのー」
そんなありきたりな声かけで終始しよう。

「名前」を呼ぶというのは、
相手の存在を認めているからこそ。
この世の中の唯一無二の存在と尊重していることを
伝えるくらい影響のあることだ。
ともによい関係を築いていきましょう、というメッセージを
相手に届けているのと同じくらいパワフルなことだ。

しかし、注意したい。
「相手の名前、入れりゃいいんだろう。
 こっちに気を許してもらうためにね」
作為は禁物。
人の感性はとても鋭い。
そういう人は、もう直感で
「危ない、この人」と、わかってしまうものだ。

「この人とより早く、よい関係を築いて、
 お互いにこの目標を達成していこう。
 達成した時の喜びをともに共有できる関係になろう」
そう思うならば、
あれやこれや複雑なコミュニケーションを考える必要はない。
灯台もとくらし。
相手の名前を心をこめて呼ぶ。
それだけで、よい。

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