先日、ある研修で受講者として参加した時のことだ。
同じグループの方たちから、
「そのジャケットいいですね」
「似合いますね」
と褒めていただいた。

せっかく褒めてくださったのだからと、
その気持ちをいただこうと思った。

「ありがとうござまいす」と返すと、
「いいジャケットを探していて、
 今関心が高いんので、特に見ちゃうんです。
 いいジャケットですね」
とさらに言ってくださるので、
こそばゆかったが、
「ありがとうございます!」とお返しした。

しばらく間があってからだろうか。

「いいですね。
 その『ありがとうございます』という返し方」
と感じ入るように言われた。
「どういうところがいいと思ったんですか?」
訊ねると、
「なんとなくいいなと思ったんです。
 話した甲斐があると思ったんですかね?」

これだけのやりとりだが、
実はとても深いことだ。

この場合の私のように、
何かしら褒められるシーンというのは、
誰にしもあるだろう。
そんな時、どのように返しているだろうか?
「いやいや、そんなことはないですよ」
が、常套ではないか。
「そんなことないです。まだまだです」
「いえいえ、そんな大したことないですよ」
謙遜する、謙虚になることはもちろん美徳。
そこに共感するが、
相手が届けてくれたその気持ちに、
まずは「ありがとうございます」と、
大切に受け取る姿勢を見せることが、
気遣いじゃなかろうか。

時間にすれば10秒くらいのわずかな時間だろうが、
この瞬間があるかないかで、
相手との関係も大いに変わってくる。

まずは受けとめてくれた姿勢を示してくれた相手に対しては、
人は、自分の本意や真意がより話しやすくなるだろう。
それは想像に難くない。

だからといって作意をもって
「ありがとう」と言ってみよう、というのではない。
「いやいや」「そんなことない」「まだまだですよ」
に終始している人は、
頑固で、他者の意見を取り入れ無さそうにも見え、
殻にこもって奮闘する人のようにも見えてしまう。

褒めていただいたら、
まずは受けとめてみる。
そんなリラックスした姿勢を、心持ちを、
相手に見せてあげよう。
多分、自分の中の心の緊張もほどけていくはず。