自分が相手よりも
状況打開のための答えが見えている時は、
アドバイスしたくてうずうずしてしまう。
それが悪いわけではない。
が、アドバイスが役に立たない時もままある。
今日はそれを紹介しよう。
数年前にコーチしていたAさんのことだ。
Aさんは、営業に異動したものの
なかなか実績が上がらず苦労していた。
異動して一年。
後輩も入ってきたので、
なんとか突破口を見つけたいと焦っていた。
Aさんが苦手意識を持っていたのは、
営業先での会話。
そこで私が最初にAさんにお願いしたのは、
営業先でどのような会話を顧客とかわしているのか、
詳細に再現するように話してもらうことだった。
聞くと、こうだ。
挨拶をかわし、数分後に商品説明。
およそ10分~15分かけて、
資料の最初のページから最終ページまで、
詳細に説明する。
Aさんの話が終わると、
顧客から「その商品には、どれたけの効果があるのか?」と質問がある。
Aさんが効果について再び説明を始める。
Aさんは顧客からあまり聞かれていないことを感じとり、
気持ちが焦り、早口になる。
10分ほどかけてひととおり話をしたが、
結果として受注にいたらなかった。
いったい営業先で何が起きているのか。
事実は何か。
あくまでもAさん視点での事実だが、
それを私たち二人で共有した。
聞いてわかったのは、
Aさんが熱意をもって話せば話すほど、
興ざめしていく顧客の姿だった。
そこで、Aさんに次の質問をした。
「なぜ営業が上手くいかないのだろう?」
「自分がお客様の立場だったら、どのように接してほしい?」
「お客様からみて話しを聞きたいと思える営業担当者と、
そうでない営業担当者の違いは何だろう?」
「今までのAさんの体験では、
買いたいと思ったときは、どんな営業をされた時だった?」
質問に答えていくうちに、Aさんはぽつりと言った。
「そうか、お客様に話をしてもらう前に、
自分から一方的に商品の説明をしているからだ。
はじめにお客様の状況や課題などを聞かなければ、
お客様がこちらの話を聞きたいなんて思うわけがない。
そうだよなあ。
でも、これは今まで上司から何度もアドバイスされてきた。
一方的に話をするんじゃないって。
まずは、お客様のニーズを聞くところからだろうって。
わかってはいたけれど、わかった気になっていただけだったなあ。
はじめて腑に落ちた感じがする」
それからAさんとのコーチングは、
新しい営業スタイルの模索に入った。
その後、Aさんは次のような会話をお客様にするようになった。
「この時間は、どういう進め方をすると
〇〇さんにとってよい時間になりますか?」
「私からいくつか質問させていただいてよろしいでしょうか?」
「もう少し、具体的にうかがってもよろしいでしょうか?」
このようなやりとりを経たあと、次の質問をストレートにお客様になげる。
「今、御社にはどのような課題があるとお考えですか?」
と。
お客様が課題について話してくださったあと、
伝家の宝刀よろしく次の言葉を提示するそうだ。
「それらの課題に対して、
わたくしどもの商品はどのように活かせるでしょうか?」
そうしてから、Aさんはようやく商品について説明をきりだす。
取引は上手くいき、受注にいたったそうだ。
話をする営業から、聞く営業へのシフト。
それが上手くいった一例。
しかし、営業だったら
おおよそ誰でもわかっていることだろう。
「話す」よりも、まず「聞く」ことが大切というのは。
わかっているけれど、どういうわけかできない。
緊張すればするほど、饒舌に一方的に話してしまう。
そんな相手に対して、
「こうしたほうがよい。ああしたほうがよい」と
アドバイスするのは悪くはないが、
結果的に功を奏しない。
そこに相手自らが答えに「辿り着く」プロセスがなければ。
そのプロセスを創るのに、
状況を複数の視点から検討するための質問は、
何をすべきかの答を探す助けになる。
きっとAさんのように、
実は既にある自分の答に魂が入るように、
「気づく」ことが起こるだろう。
自分の力で「気づいた」答えは、
やってみたい、やるという気持ちの強さも
半端なくおきてくるものだ。