「自分が相手をどう思っているかは、自ずと相手に伝わるよ。
 どんなに言葉を飾っても」
部下との人間関係が上手くいかないと愚痴めく友人に、ヒントになればと思いアドバイスしたことがあります。
しかし、その友人は「あっ、そう。」と表情が引きつり、その後は、口が重くなってしまいました。

これと似たようなことが、あなたにもないでしょうか?
よかれと思って伝えても、意図どおりに伝わらなかったことが。
どんなに有効なメッセージでも、伝え方次第で、聞いている相手の納得度合いに大きな差が生まれます。

「ストーリー・テリング」は「物語る」という手法です。
通常、語り手の身近な体験をベースにして伝えます。

わかりやすいところでは、『プロフェッショナル仕事の流儀』、『カンブリア宮殿』などは、その手法で作られています。
そう聞くと、なんとなくストーリーテリングがどういうものなのか、イメージがわくのではないでしょうか。

さて、上記の私の場合です。
この失敗を活かすべく、それからは次のように語っています。

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数年前、キャリアカウンセリングをしていた時のことでした。
その時の求職者は28歳の男性です。

「それまでずっとアルバイトだったけど、このまま30歳になりたくない。
 もう正社員を目指して就職活動をしたい。でも、自信がなくて動けない。
 どうしよう」
という相談内容でした。

私はといえば、どうにも親身になって話が聞けません。

「もう自信がないなんて言っている歳じゃないでしょう。」
「結局、働く覚悟ができてないんじゃないの。」

このように彼を批判する気持ちが起きてきます。
おそらく、私の表情や視線、声のトーンや質問の仕方など、態度もぎすぎすしたものだったでしょう。

しばらくして彼は“きっ”とした表情で言い放ちました。

「あなたに話を聞いてもらっている感じが全くしません。
 僕は相談しにきているんです。あなたとはあいません!」

しまった…! 
すぐに謝ったのは言うまでもありません。

さて、それから数日後のことです。
今度の相談相手は20歳の男性。
パソコンは全く未経験だけれども、ITのプログラマーを目指したいとのこと。
そこで、専門学校で勉強してきたこと、なぜIT業界に憧れを持ったのかなどについて自由に語ってもらいました。
聞いているうちに、彼はちゃんと研修を受けたり勉強すれば、数年のちにはプログラマーとしてやっていけるんじゃなかろうか、そんなイメージが自然と浮かんできました。
すると突然、彼が言いました。

「僕、猪俣さんの考えていることがわかった。」と。

えっ、何?

「猪俣さん、僕のこと、大丈夫だって思っているでしょ。
 そこが他のキャリアカウンセラーと違うよ」

頬を赤らめてうつむきながら言う彼を見て、次のことをしみじみと思いました。

自分が相手をどう思っているかというのは、もう自然に相手に伝わってしまうものだな、と。
だから、人と向き合う時には、自分が相手をどう思っているかをちゃんと捉えていることが、思いのほか大切なのだと思いました。

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このストーリーを話すと、相手は納得されます。
なぜ納得するかというと、「ストーリー」が聞き手に「感情移入」を起こすからです。

聞き手のほうに、話し手がその時に感じた「悔しさ、悲しさ、嬉しさ、期待感」などが伝わると、話し手の体験を自分のことのように、受けとめられるようになります。
ポジティブな感情を感じるストーリーは、「自分も同じ体験をしたい」という動機づけになります。
「やってみよう」と行動したくなってきます。

相手に伝えたい「正論」と自分のストーリーをセットにして、自分の言葉で語る。
論理のみならず、相手の感情を動かす力も、上司には大いに求められています。

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