友人のHさんは経営者だ。
お父様の後を継いでいる。
今日は彼女のことを少し語ろう。
彼女とは小学校が同じで、
低学年の時はクラスも同じだった。
お互いの父親が、ある団体の会員同士だったこともあり、
私たちは自然と仲良くなった。
小学二年生の時だ。
あれは、学校からの帰り道。
荷物が多かった私を気遣い、
彼女がコートを持ってくれた。
雨が降ったあとで、道は少しぬかるんだ状態。
要所要所に水たまりがあり、
それを避けながら注意深く歩く。
が、その時、彼女は足を滑らせ、
勢いよく転んでしまったのだ。
「あっ、大丈夫!」
スカートも靴も手も泥だらけだ。
「大丈夫だよ」
彼女は気丈に答え、立ち上がった。そして、
「ごめん・・・! 転んじゃって・・・」
服についた泥など一切構わず、
私のコートについた泥をしきりに払っている。
「私のコートはいいから。
ねえ、膝、擦りむいているよ。
消毒しなくっちゃ!」
事実、彼女の膝はすれて赤くなっていた。
そんな私の声も耳に入らない様子で、
彼女は一生懸命に、コートについた泥を払い続けていた。
自分のことは後に回して、
友人や周りの人のことを大切に考えられる人なんだ。
大人になれば、それが「信頼」なんだとわかる。
子どもの私は、そんな彼女にただただ感動するばかり。
数日後、クラスで学級委員を決める投票では、
彼女の名前を迷わずに書いた。
小さい頃のそんな彼女が、
今は複数の会社を統括する経営者。
そうだ、彼女はこんなことも言っていた。
「働いている社員が、自分の子どもをこの会社に入れたい、
そう思ってもらえるような会社にしたいの」
社員一人ひとりを大切に、
しかし、そんな会社を存続させるためには、
胸が張り裂けそうな決断さえしてのける。
名実ともにリーダーだ。
今はあまり会うことはない。
けれども、彼女を思い出すたびに、
よし、私も頑張るぞ、と気合が入る。
・・・・・・・
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