先日、夫の栄養相談に付き添った。
担当の栄養士さんは、Iさんという男性の方。
30歳少しくらいに見えた。
「お待たせしました、こちらにどうぞ」と案内され、
私たちは神妙な面持ちで席についた。

Iさんの開口一番に驚いた。

「7年前くらいでしょうか。一度お話ししましたね」
夫とのことを指しているらしい。
7年前? そんな昔?

ええ、と苦笑いする夫。

「確か山登りをされているとかおっしゃっていましたよね」

ええ、今はもうできなくて・・とさらに苦笑いする夫。
そんな前のことを覚えているなんて。
嬉しくなった。
Iさんは、今にいたるまで多くの患者さんとお会いしているだろう。
その中の一人である夫と以前話したこと覚えていて、
こうして話題にあげてくれることが、
こんなに嬉しいことなのかと、改めて知った。
尊重されているとか、そんな固い表現よりも、
なんというか、大切に見てもらっているというか、
とにかく嬉しかったのだ。
一気にIさんとの心の距離が近づいた。

それだけではない。
もう一つ気づいたことがある。
こうして以前話したことを覚えていてくれているIさんに対し、
これから受ける栄養相談でのIさんの話を
適当に聞き流すことはできない、
真剣に私もこの場にいようという、
自分の本気度がぐっと上向いたのだ。
これは初めて感じたことだった。

こういう効果もあるのか。

以前、相手と会ったことも覚えていて、
以前、話した内容も覚えている。
それを話題にだす。

とてもとてもシンプルなことだが、
相手との関係を一気に親密なものとし、
信頼という形にないものまでそこに醸成し、
一緒に真剣にやっていこうという意欲までかきたて、
実際にやるという行動まで後押しする。
そこまでのパワーがそこにはある。

さて、我が夫。
「トマトジュースをよく飲んでいた」と言う。
ん? と思った。
彼はトマトジュースはこの世の中でもっと嫌いなもののひとつだ。
何を血迷ったかと思ったが、すぐわかった。
それは、トマトジュースではない。
にんじんジュースだ。
彼なりにちょいと緊張して、言い間違ったらしい。

そんな苦笑のこともあった栄養相談。
またひとつ、大切なことを学んだ。