「人のやる気というのは、本当にささやかなことから生まれる」
そんなことをつくづく思ったことがあります。
それは今から四年ほど前、ある講演会に参加した時のことでした。
休憩時間に、隣の席の方に話しかけてみると、その方は横浜市役所にお勤めの方でした。
横浜市役所といえば、市長は林文子さんです。
林さんは「待機児童ゼロ」という明確な目標を掲げ、3年でそれを達成した方。
それに加え、経歴が華々しい。
31歳でホンダに入社。
年間145台の売上記録を打ち立て、トップセールスとして活躍。
BMWに転職後は、支店長を二店経験し、いずれも販売成績を全店トップに押し上げました。
その後、経営手腕を見込まれてファーレン東京(現 フォルクスワーゲン)に社長就任。
わずか一年半で業績を黒字転換。
2003年にはBMW東京社長就任。
2005年ダイエー会長兼CEO就任。
2008年東京日産自動車販売社長就任。
そして2009年。
横浜市長選挙に立候補し、当選。
「横浜市役所にお勤めといいますと、市長は林文子さんですよね?」
「はい、市長は林文子です」
和らいだ表情ながらも、はっきりと林さんのお名前を最後まで言い切る様子は、林さんによい印象を持ちなんだなと感じました。
「以前、私が会社勤めだった時に、林さんの講演を聞いたことがあるんですよ」
「そうなんですね」
「部下を育てる愛情といいますか、聞いていて、すごく感動しました」
彼女は、「うんうん」と深く頷き、うつむき加減のその眼差しは、何かを思い出しているように見えました。
「私は直接、話しをしたことはありません。
ただ、折に触れ、市長がビデオで挨拶するときがあるんです。
その時に必ず『皆さん、いつもありがとうございます』って言われるんです。
今まで上の人で、そんなことを言う人はいませんでした」
「今まではどのように言うんですか?」
「普通は『ご苦労さまです』なんです」
あっ、そうか・・・。
なるほど、林さんらしい。
一緒に働いている人への「感謝」と「ねぎらい」。
林さんが日ごろから大切にしていることです。
もちろん「ご苦労さまです」にも「感謝」と「ねぎらい」は含むでしょうが、上下の関係があるところから発せられているように感じてしまいます。
さらに、最も印象的だったのは、彼女の次の言葉でした。
「市長は遠い存在です。
でも、一緒に働いているって感じがするんです」
最初の頃は、ぽつりぽつりとどこまで話せばいいかと案じながらの彼女でしたが、この一言を話される時は、力強く、顔も華やいだような明るい表情になっていたのが印象的でした。
ああ、やっぱり・・・。
人のやる気というのは、大きなことではなく、日ごろのささやかな、とてもささやかなことから生まれるものなのですね。
上司から「一人の人」として存在を認めてもらったと実感できた時に、この場で奮起してみようと意欲がわいてくるのでしょう。
そういえば、こんなエピソードも思い出しました。
株式会社サイバーエージェント。
藤田晋さんが社長を勤める会社ですが、全社員の顔と名前が一致できるよう、全社員で取り組んだという記事が紹介されていました。
結果はどうなったかというと、ミスや不正が減り、離職率も下がったとのこと。
何がそうさせたかというと、自分自身が周りからちゃんと認識されていると思っていることが理由だろうと推測されています。
人が育ち、元気な会社というのは、現場で働く一人ひとりの存在欲求を満たすことでしか実現されません。
「〇〇さん、おはよう」
「〇〇さん、この前は発送を手伝ってくれてありがとう」
「〇〇さん、この前の報告書は事例がとても参考になりました」など。
上司から部下に。
部下から上司に。
同僚から同僚へ。
一緒に働く目の前の人に、言わなくてもわかるではなく、「感謝」と「ねぎらい」を届ける。
私たちは同じ組織のもとで、確かに一緒に働いている仲間なのだというメッセージを送り続けること。
このような簡単に思えることをやり続けられる人が、結果として大きな業績を周りの人とともに創り上げていくに違いありません。
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