感情的にならないで、どれくらい聞ける?
いや、言葉を変えよう。
感情的になってもよい。
でも、そういう気持ちの時でも、どれくらい相手の話に耳を傾けられる?
特に、自分にとって「聞く耳痛い話」を。
これは、とても重要な問いだ。
例えば、あなたが「これは、相手に伝えたほうがよい」と思ったことがあったとしよう。
しかし、その時にだ。
「これを話したら、あの人は『なんでこうなったの?』『だから何』と不機嫌になりそう。そうなったら、また面倒だ」と感じたら?
あなたは、相手に伝えることをかなりためらうだろう。
それでも必要なことだから、やはり相手に伝えようと思い返しても、かなり気が重いだろうし、気を遣うはずだ。
そういう人を、あなたはどれくらい信頼しているだろうか?
信頼していない、いや、できないのではなかろうか。
だから、リーダーという立場にある時は、自分にとってたとえ「聞く耳痛い話」であっても、感情的にならないで聞けるというのは、信頼関係を築くうえでも、組織としてチームとしてより早く成果を上げるためにも、とても重要なことだ。
かれこれ10年前くらいになろうか。
研修の仕事が終わり、担当講師5名でカフェに寄った時のこと。
先輩講師のMさんが「今日の振り返りをしましょう。ここをこうするともっと良かった、というところがあれば教えて」と切り出した。
さすがMさんだ。
現状に満足することなく、常によりよいものを求める姿勢が参考になる。
「じゃあ、言っていい?」
Kさんが手を挙げた。
その時のKさんの意見はもうあまり覚えていないが、概ね次のような内容だったと思う。
「強みを見つけるグループディスカッションの進行が、参加者にとってわかりずらかったと思う。例えば、こんなふうに説明してみたらどう? というのは・・・(続く)」
自分がそう思うのかの理由や改善案も加えて、話された。
ちなみにKさんは、私たちの立場や意見を尊重しながら自分の考えを率直に伝えられる人だ。
頭の回転も早く、仕事も的確に責任をもってやり遂げる。
関西出身だからというわけではないが、明るくユーモアがあり、そして面倒見もよい。
仲間うちからも一目おかれている人だ。
それを受けてのMさんの対応は?
どうやらカチンときたらしい。
「それは、こういう理由でああいう説明になったんだけど。それに、そう思うんだったら、終わってから、今、言うんじゃなくて、研修中に言ってくれてもいいじゃない。そしたら、その場で改善できたのに」
その後10分間は、「いや、そういう意味じゃなくて」「私はこう思ったから、ああした」という会話の応酬が続き、その場にいた私ははらはらしてしまった。
そのことは、その後の私たちチームメンバーにどのように影響したか。
他の方たちを観察するに、Mさんに自分の考えや意見を伝える時は、そうとう気を遣って言葉を選んでいる様子が感じられた。
と同時に、Mさんに「こうしたら、もっとよくなるよ」「ここは、こうしたらいいんじゃないかな」「こうしてくれない?」など、率直にリクエストすることもためらうようになっていた。
Mさんが気づいていたかどうかはわからないが、私には、チームの中でMさんはやんわりと孤立しているように見えた。
その微妙な距離感があったからだろうか。
たとえMさんが良い提案をしても、他のチームメンバーの心が動くことはほとんどなかったように見えた。
私は? というと、あたりさわりのない話題を選んで話すようになっていたな。やっぱり。
そうなった大きなきっかけは、あのカフェでの出来事。
よりよいものになるようにと相手が教えてくれた情報に対し、Mさんが感情的に反応したあの場面。
Mさんにも「よい」ところはたくさんある。
そう理解していても、Mさんには近づきにくい。
本音を伝えられない、話せない。
そんな感じが、ひたひたと余韻になって残ってしまう。
10年も前のことだが、鮮明に印象に残っている出来事だ。
だから思ったのだ。
私がリーダーの立場になった時には、どんなことでも聞こう、と。
「ムカッ!」ときたり、「カチン!」ときたり、「イラッ!」ときたり、「こっちの立場だってわかってよ!」と瞬間「怒」の感情になることはあるだろう。
しかし、その感情とつきあいながら、相手の話に真摯に耳を傾ける。
そして、ひととおり聞いたあとは、「教えてくれてありがとう」と伝える。
そのように、今、自分がどのように相手の話を聞いているかを示すことで、リーダーとして自分がどれくらいのものかが試されているのだと思う。
そういう姿勢の人を見て、周りの人たちは信頼を寄せ、ついていこう、何かあったら自分がフォローしよう、という気持ちになるのだと私は信じている。
たやすいことではないけれどもね。
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