私は、作家の池井戸潤さんのファンだ。
彼の小説には、哲学めいたいい言葉が散りばめられている。
『下町ロケット~ガウディ計画』。
読んで何か所も線を引いたが、次の箇所は特に心に響いた。
それは、ライバル企業に転職した技術職の中里という社員に対し、
佃制作所の社員たちが、
自分たちの技術が盗まれるんじゃないかと心配しているシーンにある。
悪意の転職じゃないかとまで言う社員に対し、
主人公の佃航平が言う。
オレは、そうは思いたくない。
中里は、自分がやりたいことをやるために
新天地を選んだ。
ウチの技術を盗み出すとか、
そんなことをする奴だとオレは思わない。
そんなこともわからない男だとしたら、
きちんとした教育をしてこなかったオレが悪い。
そう思っている。
社員を信じられなくなったら、
社長なんてやってられないんだよ。
オレはお前たちのことだって、心から信用している。
10年ほど前までは、私は家業の印刷会社で働いていた。
社長ではなかったが、とことん社長に近い側にいた。
社員を信用するか・・・。
もちろん信用していた・・・と思う。
しかし、どこかで、
こちらの思い通りに働いてくれたらそれでいい、
そう思っていたことも事実だ。
いつのことだったろうか。
印刷会社の社員が事件を起こしたいうニュースがテレビで流れた時、
まさかうちの社員じゃないだろうな、と一瞬疑ったことがあった。
もちろんそんなことはなく、胸をなでおろしたわけだが、
そもそも、一瞬でも疑うこと自体、
社員を信用していなかったことになるのではないか。
あの当時の私は、
起きた結果には責任をもつ、と腹はくくっていた。
しかし、心から社員を信用していなかったと思う。
きっとそれはうっすらと、
彼ら彼女たちに伝わっていたはずだ。
人の感性や直感は優れているのだから。
リーダーになったときに、まず最初にすること。
いや、最初だけでなく、ずーっとすること。
それは、部下を、後輩を、メンバーを、社員を心から信用することだ。
それがあって初めて、
結果に責任を持つなんてことが言える。
家業をたたんで10年。
10年たって、ようやくわかる境地になる。
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