こんにちは。storyIの猪俣恭子です。

コーチングのスキルはそれこそ多くありますが、中でも「質問する」スキルは「聞く」「フィードバック」とあわせて、コアスキルといっていいでしょう。

それは、とってもパワフルなスキルです。
私たちの心に、思考に、とてもとても大きな影響を残します。

私がコーチングを本格的に学ぼうとコーチ養成機関を訪れた時のことです。

営業担当のAさんの説明を聞きながら、プログラム内容もさることながら興味をもったのはクラスの進行役のクラスコーチという存在でした。

「いつか私もそんなことができたらいいな。やってみたい」

と感じたものの

「そんなの無理。憧れ。私にはできない」

と一瞬にしてその願いを引っ込めました。

Aさんと話しているうちにお互いに同じ歳とわかり、さらに話がはずみます。

それにしてもAさんの活き活きしていることといったら・・・。

当時の私は、やりたいことができないもどかしさで一杯でしたから、そんな自分とAさんを比較してしまい、「同じ歳でもこんなに違うものか」と軽く絶望感さえ感じました。

帰りがけのエレベーターの前で二人並んで待っていたときのことです。
Aさんが突然言いました。

「猪俣さん」

真剣な声の響きです。

「はい、何ですか?」

「クラスコーチを目指してください」

あまりもの率直な言いようにあっけにとられましたが、期待してくれているんだと嬉しく感じました。

それでも「自信がない病」がふつふつとわき「私なんか無理」と考え直しました。

「いえいえ、とんでもないです。そんな大変なことはできません。電話でクラスを運営するなんて、そんな難しいことはできないです」

それで会話は終わると思いきや、Aさんは違っていました。

「本当にそう思っていますか?」

ずしんと心に響きました。

Aさんを見ると、それまでのにこやかな表情はどこへやら、私を見つめる目には「この問いに真面目に答えてほしい」というメッセージが込められているように見えました。

「いいえ、思っていません」

そう言いきった自分に驚きました。

こんなことが言えるんだと。

「いいえ」と言いきった途端に視界がさーっと開け、身体も軽くなったように感じました。

「よし」とやる気に満ちた感覚になったのを今でも覚えています。

「こうなったらいいな、こうなりたい」という願いを正直にストレートに意思表示したのは、その時が初めてだったように思います。

この話は2004年。

その年にコーチトレーニングプログラムを受講し、2006年から今にいたるまで私はクラスコーチとしてそのプログラムに関わり続けています。

「本当にそう思っていますか?」

あの時のことを思い返せば、Aさんのあの質問は、私の可能性を信じての大きな期待を込めたクローズドクエスチョンでした。

「きっとあなたは出来る人だ」と思っていてくれたからこそ、「本当にそう思っているのか?」と真意を迫るような質問ができたのでしょう。

随分前の体験ですが、ここから大いに学んだことがあります。

そもそも自分が設定してしまった限界は、なかなかその人自身では打ち破れません。
よく聞く言葉として、次のようなものがあります。

  • 「これだけの期間でこれだけの数字を出すなんて、無理です」
  • 「私がプロジェクトリーダーなんて荷が重すぎます、無理です」
  • 「私が新入社員の指導係だなんて、無理です」

こう聞くたび、「いや、そんなことはないですから」と言いたくなり、アドバイスの一つでもしたくなります。

しかし、私はそれをぐっとこらえて質問するようにしています。

Aさんのように。

「本当にそう思っていますか?」

と。

その限界は、本当に打ち破れないものなのかどうかと。

相手の答は私のように「いいえ」かもしれませんし、少し悩んで「はい」かもしません。

「はい」であれば

  • 「どのあたりが『無理』と思いますか?」
  • 「どのあたりが不安に感じますか?」

など相手の考えを整理するようにしています。

人はそうして自分自身を話していくうちに、あいまいなものがはっきりしてきます。

状況が整理されれば、今までよりもほんの少しの努力とサポートがあれば、少しはできそうだと思えるようになるかもしまれせん。

何が「無理」と自分に思わせていたのか、話しながら人は自分で気づきます。
ただ、こちらが「聞き上手」になって聞いていればの話ですが。

それでも結局「やっぱり今は無理です」という結論になったとしても、このような時間をつくってくれたことに対し信頼が芽生え、その信頼が次の行動につながると私は思っています。

「本当にそう思っていますか?」

これは、その人がその人らしさを取り戻す可能性につながる究極のクローズドクエスチョンです。
まずは自分自身に問いかけることから始めてみてください。

決して追い詰める声のトーンではなく、優しい声のトーンで。