こんにちは。storyIの猪俣恭子です。

部下は一人ひとり違うとわかっていながら、具体的に何がどう違うのかと考えると、はたと迷ってしまいます。

ですから部下育成をする際、私たちは「自分」を基準にします。
自分がされて嫌なことは相手にしない、反対に自分がされて嬉しいことは相手にもする、それが正しいと思いながら。

しかし果たして本当にそうでしょうか?

以前勤めていた印刷会社でのことです。

デザイン担当のAさんは入社三年目。
お客さまからデザイン案についてなかなか満足がもらえない状態が続いていました。

「自分はこの仕事に向いていないかもしれない」と自信をなくしかけていました。

ところがようやくお客さまからお褒めの言葉をいただいたのです。
私は一刻も早くAさんにそのことを知らせたい気持ちでいっぱいになりしまた。

その時フロアには6名の社員がいました。

「Aさん、お客さまが今回のデザインがとてもいいって喜んでいたよ。またAさんにお願いしたいって」。

周りにいたスタッフもAさんが仕事で苦労しているのはわかっていましたから、「良かったね!」と口々に声をかけ、それに応えるようにAさんは穏やかな笑顔を見せていました。

こうして褒めることができてよかったとほっとしました。

しかしその数日後のことです。

「猪俣さん、ちょっといいですか?」
「何?」

「お願いがあるんですが、この前みたいに皆の前で褒めないでもらえますか?」

「え? どうして?」

「あんなふうに褒められると、また同じ結果を出さなくちゃいけないと、プレッシャーになるんです」

動揺しました。
まさかそんな気持ちになっていたなんて…。

それまでの私は、人は誰でも人前で褒められるほうが嬉しいものと思っていました。
私は人前で褒められるとどんどん意欲がわくタイプです。

しかし、Aさんはそうではなかったのです。

人はそれぞれ違い、十人十色の個性があることを私たちは理解しています。

そう理解していながら、自分が相手からされて「嬉しい」ことは相手もそうだと思い込み、同じように関わりがちです。

例えば、褒められる時に具体的に何がよかったのか伝えてもらいたい人は、相手にもそうするでしょうし、結果がでた時に「よくやった」と褒められたい人は、相手にもそうするでしょう。

「すごい!」と大げさに人前で褒められたい人はそのように、Aさんのようにさりげなく褒められるほうがいい人は、相手にもそうするでしょう。

それで上手くいくこともあれば、いかない時もあります。

そうしたボタンの掛け違いが起こらないためには、まずは「自分が好むコミュニケーションの傾向」を把握しておくことです。

例えば次の各項目のABCDのうち、あなたはどの傾向が高いですか?

◎仕事の進め方

A 任せられたい
B 任せられたあとも「大丈夫?」などと頻繁に声をかけられたい
C 任せられたいけれども、頻繁に「いいね、その調子」などかまってもらいたい
D 自分の専門知識や役割を発揮していくことを期待されたい

◎仕事を進めるうえで大切にしていること

A よりよい結果や成果をだすこと
B お互いに協調し、一緒に確認しながら進めること
C 考えるよりも、まずやってみること
D 情報収集して計画をたてることで失敗やリスクを避けること

◎好む話し方

A 結論が大事。そこに至るプロセスの重要性は低い。簡潔明瞭に結論から話したい
B 結論に至るプロセスが一番大事。プロセスを時系列で丁寧に話したい
C 話の焦点がいろいろなところにとぶけれども、話しながら考えがまとまるので、自由に話したい
D なぜそうなったのかの理由も含めて客観的に事実に沿って話したい

いかがですか?
あなたはそれぞれの項目のABCDのどの傾向が高いですか?

自分自身について振り返ったら、今度は部下について考えます。

部下はどの傾向が高いですか?
よくわからなければ、本人に直接聞いて教えてもらいましょう。

例えば、このように。

「〇〇さんはどのように誉められると受け取りやすいの?」

「〇〇さんが言われて嬉しい褒め言葉って何?」

「〇〇さんがやりやすい仕事の進め方ってどんな進め方?」

思っていたとおりの答えだったり、まるっきり想定外の答えもあるでしょう。
しかし、ここまでやってみてようやくわかるのです。

自分がされて嬉しいことは、相手もそうであるとは限らないことを。

反対に、自分は嫌だなあと感じることが相手にとっては好ましい関わり方であることを。

そうした視点が手に入れば、部下との関係で「こんなはずじゃなかった」と気を落とすこともかなりなくなることと思います。
結果として、部下のパフォーマンスはもっと高くなることでしょう。