こんにちは。storyIの猪俣恭子です。
一緒に話をしていると、とても居心地がいいと感じる人がいます。
会社員だった時の後輩のKさんがそうでした。
彼女と話をしていると、
「私はこの会社で将来何がしたいのだろう?」
「この職場のメンバーで、どのようなチームをつくりたいのだろう?」
「上司に期待していることは何だろう?」
日頃あいまいに考えていることが次第にはっきりしてきて、自ずと答がでてきたものでした。
いったい、彼女との会話は他の人と何が違っていたのでしょうか?
振り返ってみると、そこには適度な「間」がありました。
お互いに「沈黙」している時間があったのです。
スムーズに言葉にならなくて「うーん・・・」と考えて込んでいても、彼女は静かに待っていてくれました。
私が何を言うのだろうと、一緒にその「沈黙」を味わっているようにも見えました。
「沈黙」は「どうしよう」という気まずい時間ではなく、未来に向けた会話の一部だったのです。
彼女にとって、会話は「言葉と沈黙」で成り立っているものでした。
反対に、会話は「言葉」だけで成り立っていると捉えている人もいます。
そういう人と話をしていると、せかされて非常にせわしない気持ちになります。
営業関係の勉強会に参加したときのことです。
受講者同士でペアになって話し合いをする時間がありました。
相手の方はとても流暢に話されます。
そんな彼の様子から、あふれるほどの自信が感じられました。
話し合いのテーマは「セールスのクロージングで使える言葉を二人で10個あげてほしい」というものでした。
お互いにアイディアを出し合いながらのブレインストーミングです。
私はその場面を浮かべながらクロージングについて思いを巡らしました。
(どんなふうに言うだろう?
例えば「火曜日の10時に伺ってもいいですか?」
みたいに日時をはっきり言うのもいいかも)
それを言葉にしようとした途端、彼は畳みかけます。
「会うにしても『会う理由』を言ったほうがいいですよね。
『資料を見て欲しい』とか、『参考になる情報があるから』とか。
だとすると『御社に役立つ資料を用意しましたので会ってもらえますか?』などでしょうか」
私のアイディアは見事にブツブツと中断されます。
気を取り直し何か感想を言おうとしましたが、再び彼にさえぎられます。
「あと、『その件に詳しい者を一緒に連れて行くので会ってもらえますか』なんていうのもありますね」
これでは、アウトプットできません。
考えが浮かんであともう少しで言葉というカタチになりそうなのに、それを表現する機会もなく、すーっと消えていく。
その繰り返しでした。
彼との会話には、私が少しでも考えられるような「沈黙」が全くありませんでした。
話し合いが終わったあと、そこに私はいてもいなくても同じだったようなさびしい気持ちになったことを今でも覚えています。
「あの部下は自分で考えない。考える力が足りない。どうしたらよいものか」
といろいろな方から相談を受けます。
しかし本当のところは、部下も「考えている」ものの「自分の言葉として表現する」機会に恵まれていないだけではないでしょうか。
さきほどの彼の前の私のように。
部下を「考えられない人」と決めるのは少しあとにして、まずは会話に「間=沈黙」を意識してつくり、反応を待ってからでも遅くはありません。
例えば、ミーテイングや面談、報告、日頃の会話の場面で、部下からなかなか答えが返ってこなかったとします。
沈黙に耐えかねて、「こういうことなの?」と答えを先回りにして訊ねたとします。
それが部下にとって本当の答でなかったとしても、あなたからそう言われれば、部下は「はい、そうです」と肯定してしまいがちです。
そうしたことが続くと、部下にとっては自分の考えを話す機会がないのですから、次第に自分にはアイディアがないと思いこむようになります。
考えることをしなくなっていきます。
それではもったいない!
だから、もっと「沈黙」を活かしましょう。
「沈黙」は部下が考え、自分の言葉として表現しようと懸命に模索している時間です。
かけがえのない貴重な時間です。
しかし、なかなか言葉がでてこなくて焦っているかもしれません。
だからこそそういうときには、あなたの方が落ち着いてゆったり構えることが必要です。
「早く話して」とそわそわしていると、余計に部下は焦ります。
そうなればなるほど、いいアイディアがでてくる可能性は低くなります。
どんな考えがでてくるのか、楽しみながらその「沈黙」を待っていてあげてください。
とはいえ、「沈黙」が数秒続いたまま、結局何も返ってこないこともあるでしょう。
そういう時の「沈黙」はかえって部下にとってプレッシャー。
正真正銘の気まずい時間です。
そんなときは気楽に聞いてください。
「今、何を考えているの?」と。
「何も考えていません」や「わかりません」と返ってきたとしても、がっかりしないでください。
大切なのは、自分のペースで考える時間をあなたが大切にしてくれた、という事実です。
そんなあなたに部下は信頼を寄せます。
何回かそれを繰り返すうちに、きっと部下はこう言えるようになります。
「自分がこんなことを考えているなんて、はじめて確認できた」
「わからないと思っていたけど、そんなことはない。自分なりに答えがあることに気づいた」
と。
あなたが自分の考えを伝えるのは、最後の最後でも十分に間に合います。
コメントする