こんにちは。storyIの猪俣恭子です。
私がコーチングを本格的に学ぼうと思った2004年、コーチングプログラムを提供している会社を訪れた時のことです。
担当のOさんは落ち着いた雰囲気で声も聞き心地がよく、一緒にいて安心した思いが広がりました。
説明を聞きながら興味をもったのが、プログラムの進行役である「クラスコーチ」なる存在です。
「いつか、私もそんなことができたらいいな。やってみたい」と思いました。
しかし「それは決して手の届かない遠いもの。憧れ。私にはできない」と、一瞬であきらめました。
話をしているうちに、Oさんは同じ歳とわかり、それもあって話が弾みました。
それにしても、Oさんの活き活きしていることといったら!
どうしても自分と比較してしまい、「同じ歳でもこんなにも、仕事に感じる充実感は違うものか」と切なく感じたものです。
そして、帰りがけのエレベーターの前で、二人並んで立っていたそのとき。
Oさんは、唐突に言ってきたのです。
「猪俣さん、リクエストがあります」
「はい、なんでしょうか?」
「クラスコーチを目指してください」
あまりにもの単刀直入さに、あっけにとられました。
その反面、そう言ってもらって実は嬉しかったのですが、またもや思いました。
「私なんか無理」だ、と。
「いえいえ、とんでもないです。そんな大変なことはできません。
電話の声だけでクラスを運営するなんて、そんな難しいことは、絶対に無理です」
笑いながら、そう答えました。
「笑いながら」というのは「本当はやれたらいいな」という気持ちを、ごまかしたかったからです。
「はい、やります」なんて身の程知らずな感じがして、言えるわけがありません。
それで会話は終わるだろう、と思いました。
しかし、Oさんは違っていたのです。
「本当にそう思いますか?」
耳に届いたその質問に、重みを感じました。
「ずしん」と心に響きました。
Oさんはというと、それまでのにこやかな表情は一切なく、私を見つめるまなざしには「この問いに真剣に応えてほしい」というメッセージが込められているのが感じられました。
「いいえ、思っていません」
彼女の目を見ながら、はっきり言いきりました。
そう言った自分に、我ながら驚きました。
「では、クラスコーチを目指してくださいね」
「はい」
こう念押しされては、「はい」と言わざるをえません。
しかし、不思議なことに「はい」と答えたとたん、視界がぱっと開けたように感じました。
身体も軽くなったように感じました。
プログラム受講の目的がはっきりして「よしっ」とやる気が出た感覚を、今でも覚えています。
「こうなったらいいな」という願いを率直に正直に、ストレートに相手に意思表示する、という体験は初めてのことでした。
クラスコーチになる、というコミットメントがふつふつと生まれた瞬間でした。
受講を始めて二年後、私はクラスコーチの登用試験に合格することができました。
Oさんとの約束が果たせたのです。
それがわかって、すぐにOさんに電話をしました。
驚いたことに、彼女は当時の会話を覚えていてくれたのです。
とても喜んでくれました。
「本当にそう思っていますか?」という質問。
それは、相手を大きく突き動かす、究極のクローズド・クエスチョンです。
そして、相手にどうなってほしいのか期待を込めて、リクエストするということ。
プロのコーチのコミュニケーションのパワフルさに圧倒された、かけがえのないエピソードです。
次回は、後編として「リクエスト」がもつ意味の深さについて、語ります。
コメントする