こんにちは。storyIの猪俣恭子です。
「ビジョンを描く大切さはわかりました。
でも、職場でそれをやっているだけの時間はありません。
一時間くらいの面談だったら、できるかもしれませんが・・・」
という意見をよく聞きます。
どうも「ビジョン」というと、社会的に役立つ大層なことでなければならないと捉える人が多いようですが、身近なもので十分です。
では、具体的にどのように?
そこで、私が印刷会社で働いていた頃の話をしましょう。
職場に専門学校を卒業したばかりのA君が入社してきました。
私は少しでもA君の成長に関わりたいと、こんな質問をしてみました。
「ねえ、A君の一年後の目標って?」
「そうですね。とりあえず車を一台、欲しいです」
この答えに、正直なところ戸惑いました。
仕事の話をしているのに、なぜ車?
「とりあえず」って…いったい何台、欲しいの?
ですが、一年後の目標を訊かれて「車が欲しい」と答えたということは、A君にとって大切な思いであることは事実です。
ならば、このままこの会話を続けてみよう…と決めました。
「へぇ。車かー。いいね! なんの車がいいの?」
「キューブがいいです」
「ああ、キューブね。人気があるよね。何色がいいの?」
「黒がいいです」
「黒! 渋いね。車を買ったら、最初にどこに行きたい?」
「うーん。どこに行くかなー」
「それで、助手席には誰を乗せたいの?」
「うーん」
このやりとり、およそ、三分くらいだったでしょうか。
ひとしきり話したあと、A君はうつむいて、何かをじっと考えているように見えました。
それから約4ケ月後。
ふと、そのときの会話を思い出し、A君に車のことを訊いてみました。
「A君、そういえば車が欲しいって言っていたよね?」
すると驚いたことに「買いました」と言います。
当時の彼の給料でどうやって買ったのかと考えていると、戸惑っている私の表情を見て気づいたのでしょう。
「中古車をローンで買いました」と教えてくれました。
車を手に入れたあとのA君は、明らかにそれまでと違いました。
仕事に取り組む動作や取り組む姿勢も機敏で、業務に集中している態度は、新人ながら頼もしく見えました。
おそらく社会人として自分の責任でローンを組み、欲しいものを自分の責任で買い、働いた給料から毎月の返済をしていくなかで「自立している自分」を感じ、彼は自信と誇りを得ていたのだと思います。
「今日は残業しないで、早めにあがります」
と前もって言ってくるときもあり、理由を聞くと、「週末にドライブに行くので洗車をしたい」とのこと。
それでも、仕事は決められた時間できっちりと仕上げる働きぶりは、私も刺激を感じるほどでした。
プライベートの充実が、仕事をこれほどまでに充実させることを目の当たりにし、嬉しく感じました。
A君のこの成長の原点は、どこにあったのでしょうか?
きっと「とりあえず車を一台、欲しいですね」という私との会話だった、と思います。
あなたの〇年後の目標は?
「元気?」という挨拶がわりくらいの気軽さで、質問してみませんか?
目の前の部下に。
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