こんにちは。storyIの猪俣恭子です。

職場での会話を振り返ると、私たちは「どのようにするのか」という質問をかなりの頻度で使っていることに気づきます。

例えば…

「今回のイベントは集客目標100人」と聞けば、「どのように集客する?」
「残業時間を減らそう」
と聞けば、「どのように減らす?」

…のように。

仕事には納期があるし、品質も求められます。

効率よく、より良い成果をいち早く出そう…という前向きな気持ちがあるからこそ、「どのようにするのか?」という質問が多くなります。

しかし、この質問ばかり使っていると、「何のために、私はこの仕事をしているのだろうか?」と取り組んでいる仕事の意味がわからなくなることがあります。

そうしてモチベーションは下がります。

「どのようにするのか?」の質問と「なぜするのか?」の質問を使って、ニューヨーク大学の心理学者のK.Fujita氏らは、自己コントロール力について興味深い研究をしました。

学生を2グループに無作為に分け、片方の学生には「どのように健康を維持するか?」と質問し続け、もう片方のグループの学生には「なぜ身体の健康を維持するのか?」と質問をし続けます。

そのあと、学生一人ひとりに「すぐ手に入る報酬」「時間はかかるけれど大きな報酬」のどちらかを選んでもらいました。

すると、「なぜ?」と質問し続けられたグループのほうが「時間はかかるけれど大きな報酬」を選んだ学生が多かったのです。

つまり「目の前の短期的な報酬を我慢できる、自己コントロール力が高くなった」と結論づけられています。

どうしてこういう結果になったのでしょう?

おそらく「なぜ?」の質問に答え続けていくうち、その人の思考が徐々に長期になり、事柄の本質や意味や意義まで考えられるようになったから、と見られています。

この研究結果を知って、あることを思い出しました。

ある小学校のキャリア授業に、先生のサポートとして参加したときのことです。

それは、小学6年生が働いている大人たちに仕事内容やどうやって夢を叶えたのか、どうしてその仕事をしたいと思ったのか…をインタビューすることで、仕事や働くことを理解する、というものでした。

「なぜ、銀行の仕事をしたいと思ったんですか?」と質問され、「あの当時は、女性が働くとなると、公務員か銀行くらいしかなかったのよ」と答えていました。

インタビュー役の小学生は次から次へと変わります。

毎回そのことを聞かれ、4回ほど繰り返し答えているうちに、「本当に『銀行しかなかったから』というのが理由だろうか?」と疑問がわいてきました。

銀行しかなかったとしても、銀行でどうしても働きたくなかったら選ばなかったでしょう。
そして、はっとしました。

「そうだ、私は相談窓口でお客さまの質問や要望に丁寧に答えて、お客さまに喜んでいただける…そんな窓口応対の仕事がしたいと思っていたんだ!」

仕事をするうえでこだわっていることを久々に思い出しました。

「なぜ?」と何回も繰り返し問われ、考えて、話す。
その流れを繰り返すうちに、ようやく「真実」に近いことを思い出したのです。

このように「なぜ」と問われ続けるうちに、内省や深い洞察が起こります。

「なぜこの仕事を選んだの?」と質問されれば、はじめは

「生活のため」
「家から近いから」
「会社が安定しているから」

とありきたりな答えが浮かびます。

さらに「なぜ?」と質問が続くと、

「本当は、自分は何を求めていたのだろう?」
「本当に自分がしたいことは何だろう?」

など、自分の内側と静かに対面するようになります

そうして、本当の理由に気づきます。

「この仕事を通して、自分の可能性を広げたかったんだ」
「こういう商品を開発して、喜んでもらいたかったんだ」

と。

今している仕事に、自分なりの「意味付け」ができた瞬間です。

そのときに私たちのモチベーションは高くなり、困難に感じることであっても、粘り強くやり通せる力が発揮できるようになります。

相手の内側に、必ず答えはあります。

それを信じて、目標に対して「どのようにするのか」という質問とともに、「なぜするのか?」の質問も投げかけてください。

「なぜ、あなたにとってその目標を達成することが大切なの?」と。

他の誰でもなく、「あなたにとって」なぜ大切なのかというところに価値があるのです。

もし、部下が「お金のため」と答えるなら、「そのお金で何がしたいの?」とその先が描けるように、質問してください。
「生活のため」と答えるなら「どんな生活を望んでいるの?」と具体的に描けるように、質問してください。

すぐに的確な答えは戻ってこないでしょう。
しかし、どんな答えでもがっかりしないでください。

それは正解をだす時間ではなく、部下のモチベーションを育むきっかけづくりの時間なのですから。

何回となく質問されるうちに、部下は自分自身のほんとうの大切な思いに必ず気づきます。

小学生に質問され続けた、あの時のわたしのように。