こんにちは。storyIの猪俣恭子です。

私は小学生の頃、ピアノを習っていました。
やりたくてやっていたわけではなかったので、練習に全く身が入りませんでした。

先生から何回も叱られましたが…。
結局、年下からもどんどん抜かれ、教室でいちばん出来の悪い生徒になっていました。

ところが、5年生になって、そんな私を大きく変えた出来事が起きたのです。

教室でいちばん上手な生徒が、私が練習していた曲と同じ曲を弾くのを聞きました。

耳を疑いました。
同じ作品なのにこれほどメロディーが違うのか、こんなにも美しくきれいな曲だったのか、音色はこういうふうに出せばいいのか。

ああ、私もこんなにふうに弾いてみたい、切実にそう思いました。

帰宅後、すぐにピアノに向かいました。
彼女が弾いているイメージを頭の中に描きながら、何度も練習しました。

その一週間後、その曲を弾いたときの先生の言葉が今でも忘れられません。

「どうしたの?
とってもいいわね。何かあったの?」

それからというもの、ピアノを弾くのがとても楽しくなったのはもちろんのこと、メキメキと上達したのは言うまでもありません。

モデリングという言葉があります。

心理学用語の一つで

「何かの対象物(モデル)に、直接行動することなく他人の行動やその結果を見て、新しい行動パターンを身につけたり、行動を修正すること」

をいいます。

「この人みたいになりたい!」という「モデル」がいたほうが、実体を伴った明確なイメージがあるわけですから、技術や知識の習得や成長が早いのは想像に難くありません
小学5年生の私の「モデル」は、まさにあのときの生徒だったのです。

あなたの部下が、今「モデル」にしている人は誰でしょうか?

もしも「今、モデルにしている人はいない」というならば、一緒に探しましょう。
その人のどんなところに魅かれるのかも話してもらいながら。

何もモデルは一人でなくてもいいのです。

例えば

「ファッションはAさん」
「プレゼンテーションはBさん」
「資料作成はCさん」
「会議のファシリテーターはDさん」

などのように。

本や映画、ドラマの登場人物から選んでも構いません。

ですが、願わくはあなたも部下にとって「モデル」の一人であってほしいと思います。
そのほうが、部下はより大きな成長と変化を遂げますから。

それは、あなたがいちばん、身近にいる存在だからです。

銀行に勤めていたときのことです。

当時の私は、後輩のKさんの仕事ぶりに手をやいていました。
のんびりした態度、ミスを指摘しても「はぁい」という気のない返事。

「自分で考えて工夫をしながら仕事を進める」というよりも「指示をされれば動く」典型的なタイプでした。

自分の考えや向上心を、もっとしっかりもってほしい。
真剣にそう伝えても、まるで暖簾に腕押し。

そのようなKさんの意識や行動が、ある日を境にガラッと変わったのです。

それは私と先輩のNさんが講師として担当した研修に、Kさんが参加者として学んだことがきっかけでした。

三日間の研修が終了した後、Kさんは興奮した様子で

「研修に参加させていただいて、ありがとうございました!」

と私たちに深々とお辞儀をしたのです。

そこには、それまでにないきびきびとした力が宿っていました。

驚いたのは翌朝です。
いつも始業ぎりぎり出社のKさんが、机を拭くなどの朝の掃除を、テキパキと率先してやっていたのです。

椅子に座っている姿勢もスッと背筋が伸び、書類を仕上げる指先にも神経が行き届いているよう。
報告や連絡をするときの話しぶりにも、仕事へのやる気が感じられました。

私と二人きりになったとき、Kさんはこう言いました。

「この前の研修に参加して、福田さん(私の旧姓)とNさん(Kさんの先輩)を、とてもかっこいいと思いました。
同期からも『素敵な先輩と一緒に仕事ができて、いいな』と、うらやましがられました。
こんなに恵まれた環境なのに『私、このままではいけない』って、心の底から思ったんです。
私も、福田さんやNさんのような女性になりたいです。」

Kさんがその気になれば、あとは実践あるのみ。

一年後、Kさんは若手社員たちの憧れの先輩になりました。

私との関係も大きく変わりました。
お互いに信頼しあう、よきパートナー同士となったのです。

「モデル」の効果は計り知れないものがあります。
「モデル」が見つかった途端に、人は自分の本気度をあますところなく発揮します。

部下が自分の主体性を引き出したくなるような、そんな「モデル」は誰でしょうか?

そして、部下にとって、あなたはどれくらい「モデル」になっているでしょうか?